区民はあわてて外に飛び出した。
1985年6月22日午後9時45分、杉並区の防災無線屋外スピーカーから突然、大音量の女性の声で流れ出したからである。
大音量は25分間に渡って流れ続けた。
―都議選をめぐる対立―
「都議選に立候補しているHはひどい男です」
「こんなひどい男を都議にしてはならない」
「彼らはC派で人殺しです」
「Hは人殺しーぃっ」
当時、杉並区議会議員だったHは、新左翼のC派の支援を受けており、1985年の東京都議会議員選挙に出馬していた。
C派に敵対するK派は、選挙期間中Hの選挙ポスターを破ったり、宣伝カーを盗んで放火するなどの選挙妨害を繰り返していた。
両派は乱闘騒ぎを区内各所で起こしていた。
―周波数の同調?―
警察は、K派が移動無線車を使って電波ジャックしたものと推測して捜査を進めたが、結局真相はわからないまま迷宮入りとなった。
現在はデジタル化によってジャックすることは困難であるが、
当時の防災無線は音声に特定の周波数が重畳されているだけでスピーカーが作動する単純な仕組みだったため、
伝送使用周波数とキーとなる重畳音声周波数が割り出せればジャック可能であった。
いずれにしても迷惑な話だ。