―陰部の切断殺人―
1966年、北イタリアのベルガモ市で、奇妙な連続殺人があった。7ヵ月に渡って起こった4件の殺人事件には共通点があり、殺された全員が皆、数日前に刑務所から出所した男性であることだ。
殺された男たちがそれぞれが別の刑務所から、別の日に釈放されたため、警察は連続殺人と判断していなかった。当時まだ、一般的な刑事捜査にコンピュータは導入されていなかったのである。
被害者は皆、むごい殺され方をしていた。被害者A、B、Cは剃刀のような鋭利な刃物で性器を切断され、出血多量で死亡している。Dは性器を切り取られた上、逃亡できぬよう膝を撃ち抜かれていた。
彼らにはもうひとつ共通点があった。それは全員が性犯罪者だったということである。AとBは未成年者をレイプし、Cは若い女ばかりを狙う性的いやがらせの常習犯、Dは強姦殺人罪で起訴されたが、証拠不十分で減刑されていた。
―死の制裁―
捜査は難航する。4件の現場には手がかりがほとんどなかった。
警察は記録を丹念に調べ、ひとつの共通点を見出した。殺された男たちは、犯した罪に対して非常に軽い刑罰しか受けていなかったことだった。
捜査員は、4人の性犯罪者たちに対する制裁が動機だと断定する。
捜査員が被害者たちの所持品を調べてみると、一人の男の所持品に手がかりとなりそうなアニタという女からの手紙が出てきた。
「あなたが出獄したら、すぐ会いたいわ。迷惑かしら?」
「できるだけ早く返事をちょうだい」
「あなたのことを考えるだけで体が熱くなるの。毎晩ベッドに入る前には必ず、あなたの写真の前で裸になるのよ」
などの甘い言葉と最後に追伸として
「私の言葉はあなただけに宛てたものよ。ほかの男の目になんか触れさせないで。読み終えたらすぐに捨ててね、絶対よ。」
と書かれていた。
そして、このアニタという女との間を取り持っていたらしい男の存在が浮かび上がる。その男は彼と面会し、アニタの住所を教えて去ったらしいことも判明した。
―死刑執行人―
同一人物と思われる男が、他の3人の刑務所も訪れていた。専門家がその手紙を鑑定し、手紙が出された郵便局の消印を割り出し、一対の指紋も得ることができた。
その指紋を犯罪者ファイルと照合した結果、消印の町のファイルから一致する指紋が発見された。指紋の持ち主はアルフォンソ・エルバ。7年前、子供にいたずらをして有罪になった男に重傷を負わせた罪で、服役している。
エルバは
「やるべきことをやったまでだ。」
とすんなり容疑を認めた。
「性犯罪者の扱い方は簡単です。性格的欠陥を突いてやれば、思うがままに操れますよ。しょせんはただの変質者ですからね。私の手紙に誘われて、奴らはのこのことやって来ました。(中略)連中が苦しんで死ぬのを見ながら、姪っ子の魂が解き放たれるのを私は感じました。機会さえあれば、何度でもやったでしょう。」
彼の「姪っ子」とは、手紙を受け取っていた男が強姦して殺害した女性だった。
エルバは3件の裁判で終身刑を受け、10年後に獄中で死んだ。自分の犯した犯罪に対する後悔の念は見られなかったと伝えられている。