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恐怖の殺人の真実

切り裂きジャック事件

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切り裂きジャック事件

1888年8月31日早朝、出勤途中であったトラック運転手がホワイトチャペルのバックス通りで地面に横たわっている女を発見した。
スカートが腰の上までめくれあがっている。彼は最初、強姦だと思った。だが顔に手を触れてみて、女が死んでいることに気づき驚いた。

被害者の名はメアリ・アン・ニコルズ。42歳で5人の子持ち。アル中の売春婦だった。
メアリは首を、一方の耳からもう一方の耳の下に至るまで深く切り裂かれ、ほとんど頭が体から切断されかけていた。その上、下腹部を大きく切開されており、その無残な姿は凄惨極まりない状態だった。
すべての傷は右から左へ走っており、犯人は左利きであろうと思われた。また、あまりの鮮やかな手口に、かなり解剖学的知識のある者だろう、との見解が出されることになる。

― 第2の殺人 ―
次の犯行は9月8日に起こった。
被害者の首はねじれて壁際を向いており、切り落とされかけた首を胴とつなぎとめておくためか、白いハンカチが結わえてあった。
死体は万歳するように両手をあげ、足を開いて膝を立て、大きく広げられ、スカートは第1の殺人と同様たくしあげられていた。また腹部はめちゃめちゃに切り裂かれていた。
耳から耳までを一気に切り裂かれたのが死因で、その後犯人は彼女の腹を裂き、腸を引きずりだし、肩に乗せた。子宮、膣の上部、膀胱の3分の2が完全に切りとられていた。
被害者の名はアニー・チャップマン。もともとは中産階級の出で、ジャックの犠牲者中唯一の教養ある女性であった。
が、魔がさしたのかアルコールに溺れ家庭を壊し、売春婦に落ちぶれたのである。
しかし気位の高さで仲間内の評判は悪かった。年齢は45~47歳。深酒と肺結核のせいでひどく老けて見えた。

― 第3の殺人、第4の殺人 ―
第3の被害者は「のっぽのリズ」の愛称を持つ、エリザベス・ストライドという44歳の売春婦である。
彼女は喉笛を切り裂かれ、鼻から頬にかけてを切りひらかれ、右耳の一部を切除されていた。また、右目が潰れていた。殺されてからまだ間がなかった。
エリザベスはもともと裕福な家庭夫人だったが、遊覧船の沈没事故で夫と2人の子供を失い、失意のうちに街角に立たなくてはならない身の上になったという触れ込みだったが、この殺人によりそれが嘘であることが明るみに出た。
彼女は虚言癖のあるただのアル中で、精神に異常もきたしていたのである。

そしてその直後に起こった第4の殺人の被害者はキャサリン・エドウズ、43歳。
駆けつけた警察が直視できないほどの死体損壊だった。
キャサリンの腹部は数回にわたり切り裂かれ、内臓は露出し、腸が肩の上に掛けられていた。肝臓が切りとられ、左側の腎臓がそっくり切除されていた。
また、壁に例の有名なチョークの殴り書きの、
「ユダヤ人はみだりに非難を受ける筋合いはない」
という文句が残っていたのもこのときである。
しかし反ユダヤ暴動を怖れた警視総監が巡査にいち早く消させてしまったため、証拠としては残らなかった。

― 切り裂きジャックの誕生 ―
そして9月28日「切り裂きジャックの挑戦状」という犯行声明文が届く。これが「ジャック・ザ・リパー(切り裂きジャック)」という凶悪犯罪者を世に知らしめることになる。

親愛なるボスへ。
おれはな、売春婦に恨みがあるんだ。お縄を頂戴するまでやめないぜ。
おれを捕まえられるもんならやってみな?
こないだの赤い血をインキにして使おうとジンジャー・エールの瓶に溜めといたんだが、ねばねばして使い物にならなかったよ。アッハッハ!
お次は女の耳を切り取って旦那たちのお楽しみに送るからな。おれが次の仕事をしたら、世間に知らせとくれ。
おれのナイフはよく切れるよ。
――あんたの親愛なる切り裂きジャックより――

この手紙が真犯人からのものなのか、あるいはただのジョークなのかは現在に至るも判然としない。
だがこの「切り裂きジャック」という名が与えられた瞬間から、彼がただの変態猟奇殺人鬼から一段上の存在になったことはほぼ間違いがない。
これ以後、本物か偽者かも知れぬジャック名義の手紙はひきもきらず警察に押し寄せることとなった。

中にはアルコール中毒の腎臓の一部と共に
「地獄より。ある女から切りとった腎臓の半切れを送るぜ。残りはフライにして食っちまったよ。いける味だったぜ」
と書かれた手紙すらあった。
これはキャサリンの腎臓なのでは? と思われたが、警察はこれもいたずらの1つだと思い、正確な鑑定を行なわなかった。

こういった手紙はスコットランド・ヤードに1400通近く届いたという。
しかしそのうち「ひょっとしたら、犯人本人からかもしれない」と目されるもののうち、いくつかは同一人が筆跡を変えて書いたとおぼしきものがある。
そして明らかに故意の誤字、無教養な言い回しをしているところからして、ジャックが無学文盲の人間などではなかったことがわかる。
そしてこの事実がさらに、ジャックを謎めいた存在にしているのである。


切り裂きジャックからとされる手紙
― 最後の殺人 ―
最後の殺人は11月9日に起こった。
被害者はメアリ・ジャネット・ケリー。25歳と、今まででもっとも若かった。
彼女は自分の借りた貸間長屋で、死体となって発見された。彼女の若く美しい体はジャックの残虐趣味を頂点まで高めたのだろう。
彼女は素裸で、両足を開いた格好で死んでいた。首は胴と皮一枚でかろうじてつながっていた。
腹部は切開され、肝臓、子宮、乳房が切りとられていた。腸は壁の版画の釘に吊るしてあり、心臓は枕の横に、乳房や残りの内臓はテーブルの上にきちんと置かれていた。耳と鼻はきれいに削がれていた。
この「解体」には少なくとも1時間はかかると思われた。

― 語り継がれる未解決事件 ―
切り裂きジャックの正体は今もって不明であり、研究されている。
ジャックの研究家は「リッパロロジスト」と呼ばれてきた。それほどにジャックは、人々の探究心をそそったのである。

容疑者として頻繁に名が挙がった人々の中には、ヴィクトリア女王の孫であるクラレンス公さえいる。
その他、やれ医師であるとか、産婆であるとか、黒魔術師であるとか、いろいろな仮説が飛びかった。

ちなみに1988年、ジャック生誕100年として全英で放映されたTV番組において、FBI捜査官のジョン・ダグラスはジャックについて、こうプロファイルした。
「性的不適応者。女性全般に対する強い怒り。どの事件も被害者の不意をついて襲っているところからみて対人的にも、対社会的にも自信がないことがわかる。弁舌が不得意。おそらくは貧民窟にいようが明るい道路の下にいようがまったく関心をひかない、およそドラマティックなところのない人物――」

またコリン・ウィルソンは彼を「アウトサイダー」と定義している。
「社会から離れた者」「疎外された者」つまりそれは一種の浮遊感、非現実的感覚をともなう。
人を殺すか、人殺しの白昼夢をみているときだけ、その非現実感は消える。

彼は事件後100年以上経った今でも、人々の興味と探究心に答え、永遠の未解決事件として語り継がれている。

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